【早期療育・応用行動分析】アメリカのABAセラピーとは?

  • 2022年1月6日
  • 2024年2月14日
  • 療育

私はアメリカの大学院で早期特別支援教育について勉強していたのですが、在学中から卒業後にかけて早期療育を行うABAクリニックで実習を行いました。

アメリカで自閉症の子供に対してよく行われるこのABAセラピーは、日本でも一部の施設や事業所で行われていますが、まだアメリカに比べて一般的ではないのが現状です。

この記事では、

  • ABAセラピーではどんなことをするの?
  • アメリカの早期療育のためのABAクリニックってどんな場所?
  • 一日のスケジュールはどんな感じ?
  • ABAセラピーの費用はいくら?

について書いていきます。

ABAセラピーではどんなことをするの?

ABAセラピーの内容

私が働いたことのある特別支援学校や早期療育という場でのABAセラピーでは、主に3つのことを中心に行います。

  1. クライアントが生活しやすいように生活や学習環境を調整する(ペアレントトレーニング)
  2. 新しい日常生活のスキルや学習スキルを教える
  3. 他害行為・自傷行為などの減らしたい行動を少なくしたり、違う行動に変えたりする

ちなみに、アメリカで早期療育やABAセラピーを受ける場合は、主に施設に通う通所タイプ(Center/clinic based)かセラピストが家に来る訪問タイプ(In-home)か選択することができます。

かい
私は主に学校とABAクリニックと呼ばれる子供が施設に通ってくるタイプの療育施設で働いていました。また、クライアントの年齢は主に2から6歳なので、これから書くことは私の限られた体験に基づいて書いています。

クライアントが生活しやすいように生活や学習環境を調整する

クライアントによっては、特定の分野に苦手なことがある場合があります。そんなときは、

言葉(音声)で説明するよりも絵で説明することがわかりやすい→絵カードを見せながら教える

特定の音・感触・光などが苦手→防音ヘッドホンなど苦手な刺激をやわらげるものを使う、静かな部屋での頻繁な休憩

特定の体の部位や指先の動きが苦手→はさみや鉛筆を持つための補助器具を使う

などそのクライアントがクリニックで過ごしやすいように環境を整えます。

また、保険がおりればペアレントトレーニングといって、親が家で困っていることの対策を一緒に考えたり、

学校と連携してセラピー環境と同じような配慮をするようにお願いすることもあります。

新しい日常生活のスキルや学習スキルを教える

特に早期療育においてはセラピーの時間のほとんどは新しいスキルを教えることに使います。

私が担当したクライアントのほとんどはコミュニケーションに遅れがあったので、話すこと、聞くこと、その他の非言語コミュニケーション(目線を話し相手に合わせるなど)はもちろんですが、発達段階に合わせてありとあらゆるスキルを教えて練習します。

かい
どんなスキルを教えてほしいかは親の意向も聞きます。

例えば、

  • 日常生活の動作:着替え、トイレ、食事(スプーン・コップ飲みなど)、歯磨き、手洗いなど
  • 学習スキル・就学に必要なスキル:指定された場所に決められた時間座る、指示を聞く、文字の読み方、書き方など
  • 社会スキル:挨拶、ルールがあるゲームで遊ぶ、順番を待つなど

このようなスキルは、親がどんなことを教えてほしいかという希望や発達段階に合わせたカリキュラム・アセスメントツールのようなものを使って決めます。

ABAクリニックでは

  • Verbal Behavior Milestones Assessment and Placement Program (VB-MAPP)
  • Assessment of Basic Language & Learning Skills (ABLLS)

というアセスメントをガイドとして使っている場所が多いです。

他害行為・自傷行為などの行動を減らす

クライアントの中には、床や壁に頭を打ち付ける行為や皮膚を血が出るまで引っ掻いてしまうなど、自分の体の一部を傷つける行為をする子供もいます。

その他、他のお友達を叩いてしまうなどの他害行為など、危険な行動がある場合、それらの行動が少なくなるようにプログラムを組みます。

応用行動分析の考え方では、行動には理由(機能)があると考えます。

この行動の原因や理由を探り、その機能が他の行動で満たされるように新しいスキルを教えたりします。

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アメリカの早期療育のためのABAクリニックってどんな場所?

ABAクリニックにある施設

私は今まで4箇所の学校やABAクリニックで働いてきましたが、どの施設もだいたいは学校や幼稚園と一緒の作りです。私が働いた場所はすべて

  • 滑り台やブランコなどの屋外遊具がある園庭
  • 朝の会(Morning Circle)などを行う集会室
  • 冷蔵庫と調理器具があるキッチン
  • 個別指導を行うときの机と椅子がある個室

などがありました。その他、生徒の年齢や行うプログラムに応じて、職業訓練のための部屋や屋内体育館などがありました。

いくつかのクリニックでは、観察室(Observation room)と呼ばれる子供の行動をマジックミラー越しに観察するための部屋がある場所もありました。観察室があるクリニックでは、許可があれば親も子供のセッションを見る事ができます。

その他、センサリールームと呼ばれる、照明を落として間接照明のみにしてあったり、柔らかいソファなどがおいてある感覚過敏の子供が休むための部屋があるところもありました。

ABAクリニックで働くひとの職種

働いている人たちの人数はクリニックの大きさによって違いますが、だいたい下のような職種の人が働いています。

  1. アドミニストレーションスタッフ(親や保険会社とやり取りしたり、受付業務を行う事務職の人。)
  2. セラピスト(実際に子供と1:1のセラピーを行う人。RBTという資格がある人とない人がいる。女性が圧倒的に多い。)
  3. スーパーバイザー(セラピーの内容を決めて、適切に行われているか監督する人。全員がBCBAかBCaBAの資格を持っている。女性が圧倒的に多い。)

この3つに加えて、クリニックによっては

  • 言語聴覚士(Speech language pathologist/SLP)
  • 理学療法士(Physical Therapist/PT)
  • 作業療法士(Occupational Therapist/OT)

を常勤で雇っているクリニックもあります。私が働いていたいくつかのクリニックでは常勤の言語聴覚士がいて、ABAセラピーの合間にスピーチセラピーという発音や文章を作るスキルの訓練をしていました。

ABAセラピーのスケジュール

私が働いていたクリニックでは、8時頃からセッションが始まる場所が多かったです。

一週間どのくらいの時間をクリニックでセラピーを受けられるかは、保険会社がどのくらいセラピー代金・時間を承認するかや、他に公立の特別支援幼稚園に行くかによるので、クライアントごとに違います

私が働いていた場所では、月曜から金曜日までの午前中の8時から12時の計20時間/週か8時から15時までの35時間/週という子が多かったです。

週35時間セラピーを行う子の一日のスケジュール例はこんな感じでした。

(このクリニックは1日に3人のセラピストが2時間ずつセラピーを担当する仕組みでした。クリニックによっては4時間/一人というパターンもあります)

時間 内容
8:00 登園、親と簡単な体調チェックを行う(朝ごはんを食べたか、睡眠時間を十分に取れたか、排泄は正常か)
8:00-10:00 セラピスト1人目のセッション:ご飯を食べてこなかった場合は、クリニックで食べさせることも。

9:00にモーニングサークルと呼ばれる朝の会がある。

本を読んだり、ダンスしたり、歌を歌ったりなどなどをしつつ、先生の質問に答えたり、静かに座っている練習も兼ねている。その他、1:1で決められたプログラムを教えたり、外で遊んだりする。

10:00-12:00 セラピスト2人目のセッション:前のセッションと同様1:1で決められたプログラムを行う。クライントの年齢に応じて、10時ごろに朝のおやつタイムがあり、家から持ってきたおやつを食べる。

スピーチセラピーなどがある日は、その時間だけスピーチの先生(Speech language pathologist/SLP)とセッション。スピーチセラピーの時間は、SLPが立てた計画に基づいて行われますが、BCBAとSLPが話し合って決めたスキルに取り組むこともあります。

12:00-13:00 セラピスト3人目に引き継いでお昼ご飯:家から持ってきたお弁当を食べる。
13:00-15:00 セラピスト3人目とセッション:午後も何人かで集まって活動する時間がある。内容は、ゲームをしたり、工作をしたりなど。

14時頃に午後のおやつタイムがあり、家から持ってきたおやつを食べる。

15:00 降園:迎えに来た親に引き渡し。その日の学習記録などの共有。

一日にセラピストが入れ替わる理由は、複数のセラピストとスキルを学習・練習することでどんな人とでも学習したスキルを出すことができるように練習するためです。

これによって「A先生には挨拶できるけど、B先生にはできない」のような事態を防ぎます。

ABAというと机の上に子供を座らせて「これは何?」「りんご」というように質問に答えるドリル練習などをするDiscrete Trial Trainingを想像される方もいますが、
最近の早期教育はNaturalistic Developmental Behavioral Interventions (NDBI)という自然なコンテクスト(e.g.遊びの中、生活の中)を使って行うのが主流となっています。
私が働いていたクリニックでも机に座らせて課題をやらせる時間は全体の10〜15%ほどで、残りは遊びながら学べるように課題が設定されていました。
例えば、アルファベットを教えたい場合、机に座らせて「Aはどれ?」と聞くのではなく、アルファベットのパズルで遊びながらやアルファベットを使ったゲームを使う、といった感じです。

ABAセラピーの費用

アメリカでは個人単位で保険のプランを選んで加入し、保険会社がどのくらいの額を支払うかによって自分の支払い分が決まります。
アメリカでは、ABAセラピーが医療目的で必要と認められた場合、ほとんどの保険でABAセラピーの費用をカバーしてくれます。ですが、そのカバー割合や自己負担額は個人の保険プランの契約によって違います。

ちなみに、自費で受けることもできないわけではないですが、だいたい1時間100ドル以上はかかるので、週35時間受けた場合は100ドル×35時間で1週間辺り3500ドル、1ヶ月20日通ったとすると70000ドル(日本円で約80万円)くらいかかる計算になります…。

だい
やばすぎ

私が働いてたクリニックでは、保険会社との手続きを助ける役割の人が働いており、保険を使ってセラピーを受けるために書類を用意したりしていました。

まとめ

この記事では

  • ABAクリニックでのプログラムの内容・施設
  • ABAクリニックのスケジュール
  • ABAセラピーのコスト

について書きました。

「これからアメリカでABAをはじめるけどどんな感じ?」「アメリカの早期療育ってどんなことするの?」といった疑問の助けになれば幸いです。

※この記事は私個人の経験に基づいて書いているので、すべてのケースに当てはまるわけではありません。