日本でも最近ふえてきている応用行動分析を用いた行動療法(ABAセラピー)。アメリカでは特別支援教育の分野で広く使われており、教科書や資料などが豊富にありますが、日本語の資料はまだあまり少ないのが現状。この記事では
- 応用行動分析やABAとは?について簡単に知りたい
- ABAセラピーにこどもを通わせたいけど、ABAってなに?
- 応用行動分析やABAの基本って?
応用行動分析・ABAとは
概要
ABAはApplied Behavior Analysisの略で、日本語では応用行動分析といいます。
ABAは行動科学の理論に基づいて発展した分野で、アメリカで1930年代に始まりました。研究分野としてはそれなりに長い歴史があり、この分野の有名な研究者にはB.F.スキナーという人がいます。
ちなみにこのスキナーというおじさんは、大学の心理学の講義などで「オペラント条件づけ」を習うときに出てくるよ!
応用行動分析はざっくり「人の行動行動を変えるにはどうしたらいいか?」という問いについて考える学問です。
特に、応用行動分析では日常生活や社会生活で重要な行動(例:挨拶する、列に並ぶ、歯磨きなど日常の基本動作などなど…その他たくさん)について取り扱います。
どんなところでABAは使われているか
私がこの応用行動分析を使っていたのは特別支援教育の分野ですが、会社経営、スポーツ、非行少年などへの矯正教育や動物の訓練など他の分野でもたくさん使われています。
アメリカでは自閉症への教育に広く使われているので、ABA=自閉症用の療育方法という捉え方も間違いではありませんが、ABAは他の分野にも広く応用できます。
ABAの基本と考え方
ABAの基本
ABAでは、目に見える行動のみを研究対象として扱います。
なので、子供の行動や学習計画について考えるときに
- 「この子は怒りっぽい性格だから、こういうことをする」
- 「気合いや根性がないから、習慣をつくるのが難しい」
- 「知的障害があるから、こんな行動をする」
といった個人の性質や性格については考慮しません。なぜなら、人の考えや性格は目に見えないので計測したり、観察することが難しいからです。
このようにクライアントの性格や気質について分析対象から排除することで、分析を行うときに
誰が見てもある程度同じ解釈をすることが可能となり、より客観的に判断を行うことができるようになります。
概要の欄で書いたように、応用行動分析は「人の行動を変えたり、調整するにはどうすればよいか?」について考えます。その際に、その行動がなぜ起きたのかを周りの環境に着目して考え、行動変更の方法について検討します。
具体的に周りの環境には、以下のものが該当します。
行動が起こった結果、何が変化したか
行動が起こった結果、ものや報酬が与えられたかどうか
これら注目して行動の原因(ABAの教科書では「行動の機能」と呼びます)を探っていきます。ABAでは行動は同じ結果や周りの人の行動が繰り返された結果、出来上がったものと考えます。
次のセクションでは具体例について考えます。
行動の理由(機能)について、ABAではこう考える
というケースを
- 行動のみに着目する考え方
- 行動と周りの環境の両方に着目する考え方(ABA)
で見てみます。まず、1の行動のみに注目して、起こった行動と生徒の頭の中や気持ちを想像して考えてみます。
行動のみに注目した場合での解釈
・コップを倒すのがただ好きだから?
・イライラしていてものに八つ当たりしたかったから?
・飲み物をこぼして他の人を困らせたかったから?
・机の上にのっているものは倒さなければいけないというこだわりがあるから?
などなど…いろいろな解釈ができます。
もしかしたら、この中に行動の理由はあるのかもしれませんが、このような解釈は無限にできる上に、実際に本人でないと本当の行動の理由はわからないことが多いと思います。
特に、私は早期療育の分野で働いているので、担当クライアントは3から5歳児が多く、「なんでこうしたの?」と聞いても言葉でうまく説明できない事が多いため、理由を本人から聞き出すことはほぼ不可能といえます。
ABAを用いた場合での解釈
上では、行動のみに着目して行動の理由を分析してみました。ABAでは、もっと時間軸を伸ばして行動の前と後にどんなことが起こったのかにも注目して行動の理由について考えます。
イメージ的には、視点をもう少し離れた場所に移して行動の前後についても広範囲に見る、というイメージです。
このように少し離れて3つの点を見ることで、行動の前から行動の後まで線として捉えて行動の理由について考えます。
応用行動分析では、「行動の後」に起こったことが行動(このケースでは「カップを倒す」こと)を維持している原因だと考えます。
では、実際にこのケースで行動の前と後でどんなことが起こったのか表でまとめてみます。
時間軸 | 起こったこと・周りの人やものの変化 |
行動の前 |
|
行動 | タンブラーまで走っていき、右手で勢いをつけてタンブラーを叩き、倒した |
行動の後 |
|
これはカップを倒したとき一回分の記録ですが、同じようにこのカップ倒しの行動の観察記録を継続的に何度もつけていきます(重要)。
ある程度の回数分たまったところで、記録を見返して行動の前や後でどんな規則性があるか検討します。
結論的に言うと、「カップを倒す」という行動が起こった多くの場合で「カップを倒す→先生に怒られる、先生と一緒に机を拭く」という流れが繰り返されていることがわかりました。そこで、この行動の理由について「他の人(主に先生)から注目を浴びるため」という仮説を立てました。
ちなみにこの「注目を浴びる」という行動の理由には、みんなの前で先生に褒められるといったよい注目と怒られるといった悪い注目どちらも含まれます。
この4つの機能についてはまた別のポストで紹介します。
※行動の機能は、さらに細分化して5つや6つに分類されるという説もあります。
実際のクリニックでは、この後、この仮説を基に、この「カップを倒す」という行動が減るような介入方法を検討します。
具体的には、カップを倒した後の先生の行動(行動の後)をまず変えることで、カップを倒す回数が減るかどうか実験します。その他、行動の前の環境を調整することも多いです。
まとめ
このポストでは主に
- ABAの歴史
- ABAの概要
- ABAの行動の原因に対する考え方
をできるだけ専門用語を使わずに簡単にわかりやすく解説してきました。学べば日常生活や子育てにとても役立つ分野なので、また別のポストも投稿していきます!