私はアメリカの大学院在学中から、3歳から5歳の自閉症を持つ子供を指導してきました。
早期療育と呼ばれる3歳前後で行われる療育では、かなりの時間を「他人とコミュニケーションを取る」というスキルを教えることに使います。
このコミュニケーションスキルをクリニックで小さな子供に教えるときには、日常生活の中にコミュニケーションを取らなければならない状況をわざと発生させることで、日常生活(食事・遊び)の中で自然に練習機会を作るように働きかけます。
- 子供の発語がない、または少ないので伸ばしたい
- 発語が少ない子供とどのように接したらいいかわからない
- 子供と一緒に遊びたいけど、どうしたらよいかわからない
このような疑問をもつ人のために、アメリカの早期療育クリニックでよく使う発語を伸ばすテクニックを紹介します。
発語を促すにはどうしたらいいか?アプローチの方向性
まずは、自分が欲しい物をもらう・してほしいことを要求するための言葉を教えます。実際に早期療育クリニックでもまずは何かを要求する場面で使う言葉から教えます。
具体的には、よく遊ぶおもちゃの名前(例:車、ブーブー)や他の人に手伝ってもらうための言葉(例:「やって」「手伝って」)を教えるのが簡単だと思います。
自分の要求を伝えて、欲しい物を手に入れられることはライフスキルとして大切であると同時に、
- 言葉や他の方法で伝えられないから、自分の要求が相手に伝わらない
- うまくコミュニケーションが取れずに、自分の欲しい物が手に入らない
というイラつきを解消して、奇声・癇癪などの問題行動を抑える効果があると言われています。
テクニック1 おもちゃを使わない感覚遊び(Sensory Social Routine)
1つ目のテクニックとして紹介するのは、Sensory Social Routineというおもちゃを使わない、かつ、大人がいないと成立しない感覚遊びです。
この遊びは以下の3ステップで行います。下では「大人がブランコを押す」という遊びを例にとって説明します。
- 子供が遊びを楽しむフェーズ:普段どおりに遊びます。大人はブランコを押し、早くしたり遅くしたりして子供を楽しませます。
- 遊びを一旦とめて発語を待つフェーズ:ブランコを止めて子供の発語を待ちます。子供にこちらが発語を待っていることを気づいてほしいので子供の目を見て発語を待ちます。
- 子供の発語フェーズ:子供から自発的に発語があった場合は、1の楽しく遊ぶフェーズに戻ります。2のステップで発語がない場合は、大人が発語のお手本を見せます(例:「押して」「もっと」)。
この繰り返しによって子供は、自分の発語で楽しい活動(ブランコを押す)が起こった、ということを学びます。
この学習によって、子供はブランコが止まったときは大人に「押して」といえば良いんだ!ということを学び、徐々に要求のための発語が形成されていきます。
このテクニックは遊びながらできてやっている子供も楽しいので、私が働いていたクリニックでは、内容を変えながらほぼ毎日行われていました。上の例ではブランコを紹介しましたが、遊びの内容はどんなことでもよくて、例えば、
- シャボン玉
- オフィスチェアで回転する
- いないいないばあ
- ⼦供を⾜に乗せてゆらす
- 一本橋こちょこちょ
- ⾳楽をつけて踊る (途中で音楽を止める)
- ⾵船をふくらます
などでも同様に遊ぶ→一旦止まる→発語があったら遊びが再開される、のように繰り返します。
言わせる言葉は、子供が発語できるレベルに合わせて簡単になるように調整します。(「シャボン玉を吹いて」が難しい場合は、「もっと」「もう一度」など簡単な言葉にする、英語だとMoreやGoなどのレベルの簡単な言葉にします。)
短くてわかりやすいビデオがあったので貼っておきます。
ビデオの中で、女性と子供が遊んでいます。
歌が終わると、女性は子供から手を話し、子供が自発的に発語するのを待つ(0:10)→聞き取りづらいですが、子供は”Row(歌の歌詞の一部)”と言ったので(0:16)→歌と遊びが再開される
という流れがわかると思います。
ビデオの中で、子供が自発的にコミュニケーション(手を伸ばし”row”という)をとろうとしたのでその行動を強化するために遊びが再開されました。
テクニック2 大人の助けが必要なちょっと不便な状況をつくる
大人の手助けがあれば、自分が欲しい物・やりたいことが手に入る状況を作り出し、日常の中でコミュニケーションの必要な場面を増やします。例えば、
など日常の中でもちょっとした工夫でコミュニケーションの練習の機会を増やすことができます。
子供が気づいていない場合は「何がほしいの?」というように質問したり、わざと「大人が欲しいアイテムを持っている」ことを見せることもあります。
テクニック3 選択肢を提示して選ばせる
このポストでも紹介しましたが、選択肢を与えて選ばせるという作業を日常に取り入れることによってコミュニケーションの機会を増やします。選択肢を提示する場面はなんでもいいのですが、最初のうちは選択肢は必ず子供が喜ぶ二択にしましょう。
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- おやつのときにりんごを食べるか、バナナを食べるか聞く
- 塗り絵を色鉛筆でやるかクレヨンでやるか聞く
- YouTubeで音楽を聞くか、アニメを見るか聞く
まとめ
この記事ではアメリカの早期療育クリニックで発語を伸ばすための関わり方を3つ紹介しました。私が個人的に考える3歳前後の子供を相手にした早期療育で最も大切なことは、子供が楽しんで活動に参加していることだと思います。
そのためには、あまり最初のハードルを上げないことがとても重要です。最初のうちはもし発語がなくても自分がお手本を言って見せることで、子供がほしいものにアクセスできるようにしましょう。
発語させることにこだわって子供を待たせてしまうと、子供がイライラして泣き出したり癇癪を起こしたりしてしまい、お互いストレスになってしまいます。
お子さんの好きなものや楽しみにしていることをうまく活用して、日常生活に発語の機会を増やしましょう。