アメリカの大学院の特徴・日本との違いは?

  • 2021年6月5日
  • 2021年6月18日
  • 留学

この記事では、

  • アメリカの大学院に興味があるけど、あまり情報が見つからない
  • アメリカ・日本の大学院の具体的な違いは?
  • 実際にアメリカの大学院を経験した人の話を聞いてみたい!

という人に向けて、アメリカの大学院の特徴・日本の大学院との違いにフォーカスして解説していきます。

 

僕たち夫婦は2人とも日本で学士を取って、アメリカの大学院に進学しました。

 

だい
僕は上智大学 → Texas A&M大学で経営工学の博士号(Ph.D.)を取りました。
かい
私は早稲田大学 → The University of Texas at Austinで特別支援教育の修士号(M.Ed.)を取りました。
だい
学部も院も大学のランクちょっと負けてて悔しいっ!(学歴厨)
かい
『ちょっと』じゃないよ(煽り

 

この記事に載っている情報は、あくまで筆者個人の経験・知識によるものです。

アメリカの大学院のシステム・仕組みは学校・学部によって大きく異なります

実際に大学院を受験をされる方は、必ず受験先の大学のWebサイトを確認し、最新の情報を確認するようお願い致します。

 

アメリカと日本の大学院の基本的な違い

授業・ミーティングはすべて英語

大前提ですが、アメリカなので授業やディスカッション・ミーティングはすべて英語で進んでいきます。

英語の勉強のために大学院に来るわけではないですが、大学院留学を通して英語力を底上げすることができます。

 

具体的には、大学院の授業を通して

  • 教科書・論文を読む(Reading)
  • 授業を聴く(Listening)
  • 論文を書く(Writing)
  • ディスカッション・プレゼンをする(Speaking)

と英語の4技能を伸ばすことができます。

 

大学院の授業は専門性が高いため、一般的な英会話で使われる英語とは言えないかもしれません。

しかし、授業以外でも友達とコミュニケーションを取ったり、毎日英語を使う環境にいることで英語力は少しずつ上がっていくはずです。

 

大学院で得られる専門知識に加えて、活きた英語力を身につけられるのは、アメリカの大学院の大きな利点です。

 

アメリカの大学院は、留学生が多い傾向がある

当たり前の話ですが、日本の大学院の学生は、日本人の割合が非常に高いです。

海外から学生が集まってくるであろう東京大学の大学院ですら、留学生の割合は約20%となっています。

 

それに比べアメリカの大学院では、学部にもよりますが留学生の割合が非常に高いです。

特に顕著なのがEngineering系などの理系の学科で、インド人や中国人からの留学生が非常に多いです。

 

だい
僕が通っていた理系大学院は、90%以上が留学生でした。
教授も含めノンネイティブが多いので、大学院では意外と英語の苦労はなかったです。
ただネイティブとの会話にはなかなかついていけず…

 

逆に教育や法などの文系の学科では、アメリカ人が多い傾向にあります。

 

かい
私の通っていた文系大学院では、留学生は5%とか
特別支援教育を海外まで学びに来る人は少ないのが現状です。
アメリカ人が多いので授業ついていくのが大変だったよ…

 

他にもエリアによって留学生の数は異なります。

西海岸・東海岸などは良い大学が多く海外から人が集まりやすいため、留学生が多くなる傾向があります。

 

このようにエリアや学科によって差はありますが、平均すると日本に比べると留学生の数は多いです。

色んな国の人と一緒に勉強したり遊んだりすることで、他国の文化・料理・歴史などをより身近に学ぶことができます。

ワールドカップのときも、研究室のみんなで試合観戦して盛り上がったりしました。

 

だい
僕の研究室の学生は、日本・韓国・中国・インド・メキシコ・ブラジル・フランスとかなりグローバルでした!
アメリカ人は教授だけでした…笑

 

退学になるケースも…

アメリカの大学院は、日本よりも成績に厳しいです。

修士博士問わずほとんどのアメリカの大学院で、GPA3.0を下回ると退学になります。

 

GPAというのは成績の平均値です。

アメリカの成績は、A・B・C・D・F(不可)の5段階評価で、

  • A: 4.0
  • B: 3.0
  • C: 2.0
  • D: 1.0
  • F(不可): 0.0

この数値を平均したものがGPAです。

 

GPAが3.0を下回るということは、成績の平均がBを下回るということです。

仮にCを取ってしまうと、他の科目でAを取らない限り退学になってしまうということです。

 

他にも博士課程の途中には、

  • Qualifying Exam

と呼ばれる特別な試験があり、これにも落ちると退学になってしまいます。

(詳しくは後ほど博士課程のセクションで解説します。)

 

このように、アメリカの方が入学してからの環境が厳しく、退学・中退となってしまう学生が多い傾向があります。

 

国際比較の視点からみた日本の博士課程教育の現状』によると、

日本の博士課程修了率が79%であるのに対し、アメリカは57%であるそうです。

 

アメリカの修士課程の特徴

修士課程は授業が中心

日本の大学院との大きな違いの一つに、修士課程の内容があります。

日本の修士課程、特に理系の大学院は、授業の負担がそれほどなく研究に費やす時間が多いです。

大学・教授にも寄りますが、出席してレポートを出したりすれば割と簡単に成績を貰える授業も割と多いです。

その代わりに、学会発表に行ったり論文を投稿したり、研究に多くの時間を割く傾向にあります。

 

一方で、アメリカの修士課程は学校や学科によってかなりシステムが異なります

 

工学部(Engineering)の分野では、2年間授業を取るだけという場合が多いです。

授業を受けてある程度の成績(平均B以上)をキープすれば、研究を一切することなく修士号を取得することができます。

 

修士号の中にも『Thesis option』と呼ばれるタイプがあり、これは教授のもとで研究をして修士論文を提出することが目標になります。

2年間授業も取った上で更に研究も行うため、かなり忙しくなります

アメリカの大学院の授業は一つ一つの負担が大きいため、授業を複数取ると研究に時間を割く余裕がなくなります。そのためガッツリと研究に時間を割けるのは夏学期と最後の半年くらいしかありません…

その忙しさのためか卒業に2年以上かかる場合もありますが、アメリカでは年中採用が行われているため、進捗状況に応じて柔軟に卒業を決めることができます。

 

だい
僕の学科(工学系)では、80%がNon-thesis、20%がThesis optionでした。ほとんどの人が授業を取るだけで修了していきます。
かい
私の修士(教育系)は基本授業だけでしたが、それ以外に資格取得のために特別支援クリニックでインターンをする時間もありました。

 

このように、大学や学部によってシステムが大きく異なるので、受験を考えたらまずは大学のWebページで詳細を確認しましょう。

 

卒業後の進路は就職(高収入)か進学

アメリカも日本も、卒業後の進路は似ています。

  • 就職
  • 博士課程に進学して博士号を目指す

アメリカでも、修士から博士課程に進学する学生もそこまで多くはなく、就職する学生が多いです。

 

ここで注目してほしいのは、学士修士での収入の上がり具合です。

 

日本の学士・修士の初任給(令和元年)を見てみましょう。

学位 初任給(月給)
学士 21.0万円
修士 23.9万円

令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)

 

月給が10%ちょっと増加しています。

年俸にして、35万+ボーナス増加分収入が増えています。

 

これに比較してアメリカの学士・修士の初任給はどうなっているのでしょうか?

大学院全体のデータは見つからなかったので、ここでは高給で有名なコンピュータサイエンスで比較してみましょう。

学位 初任給(年俸)
学士 $68,103(約750万円)
修士 $82,275(約900万円)

National Association of Colleges and Employers

 

年俸が20%(150万円)も増加しています。

ここではコンピュータサイエンスを紹介しましたが、他の学問(特に理系)でも同様に収入が大きく上がる傾向があります。

 

アメリカは日本よりも学歴社会と言われています。

高い学位を持っていると、それだけで自分のスキル・知識の証明にもなります。

学位がそのまま収入に直結するので、企業に入ってからもキャリアアップのために大学院に帰ってくる人も多いのです。

 

博士課程を諦めた人への残念賞パターンも…

博士課程を中退・退学した場合でも、修士号をもらうことができるケースがあります。

具体的には、修士課程に必要な分の授業を受け終えていれば、修士を取得して大学をやめることができます。

 

  • 博士課程のレベルについていけなかったり、
  • 研究が性に合わなかったり、

博士課程を中退する人は結構多いので、このパターンで修士号を持っている人も結構いたりします。

 

残念賞的な扱いですが、それでも修士号は修士号

Resume(履歴書)に書いて真剣に就活すれば、それなりに良い職に就くことができるでしょう。

 

アメリカの博士課程の特徴

博士課程入学に修士号は必要ない

日本の博士課程に入るためには、まずは2年かけて修士号を取得する必要があります。

その後3年研究をし、博士論文を執筆して博士号を取得します。

 

一方アメリカの博士課程では、修士号を必要としない場合が多いです。

アメリカの博士課程は、日本の修士と博士を併せたようなプログラムになっており、

  • 最初の1〜2年は授業中心
  • その後3〜4年は研究中心
  • 最後に博士論文を執筆して博士号を取得

という流れになっています。

 

博士課程に修士号は必要ありませんが、事前に取っているとメリットもあります。

  • 修士で研究実績・ネットワークを作ることができ、博士課程に入りやすくなる
  • 学士のGPAが悪かった場合には、修士のGPAで上書きできる
  • 専門性を事前に高めることができるため、博士の授業についていきやすい

 

博士課程に決められた期間がない

日本の大学院では、

  • 修士 – 2年
  • 博士 – 3年

といったようにベースとなる期間が定められています。

 

一方アメリカの博士課程では、具体的な期限が定められていないことが多いです。

大学・学部によってシステムが違い、卒業にかかる期間も大きく異なります。

 

僕の周りのEngineering(工学系)の大学院では、博士課程の期間は

  • 学部卒 なら 5〜6年
  • 修士卒 なら 4〜5年

程度が多かったです。

 

だい
僕は学部卒で丸5年かかりました。THE・平均って感じです…笑

 

博士論文が書き上がるまで卒業できないので、研究が進まないとなかなか卒業させてもらえません

超優秀な人は3で博士号取るような人もいますし、逆に出来が悪ければ8以上かかることもあるそうです。

 

哲学などの人文学系の博士課程は特に長くかかる傾向があります。

だい

僕は博士8年生を見たことがあります…

 

入学後にも特別な試験がある

先程説明したように、アメリカの博士課程には修士号が必要ありません。

その代わりに、博士課程の途中で特別な試験を受ける必要があります。

 

  • 必修授業を取り終わること(1年目の終わり)に受ける試験で、これから研究をしていくにあたって必要な知識・能力が身についているかを測る試験です。
  • 試験内容・形態はさまざまで、基本的には筆記試験・口頭試験が行われ、必修科目で学んだ知識、その応用が問われます。
  • Qualifying examに合格できないと、博士課程に残る資格がないと判断され、残念賞で修士号をもらって大学を去ることになります。
  • 大学によっては、『Comprehensive exam』『 Preliminary exam』と呼ばれていたりします。
だい
僕の学科は2時間×3科目=合計6時間の試験でした。難易度は予想してたよりも高かった記憶があります。
僕の代は4人受けて無事全員合格でしたが、その一つ上の代では50%の学生が落ちて退学になったとか…
胃が痛くなるほどシビアですが大学院の質を維持するという面では合理的です。

 

Qualifying examを終えたら実際に研究を始めます。

 

ある程度は研究の方向性が定まったら、自分の博士論文を審査する教授陣の前で研究計画発表(Research Proposal)を行います。

ここでたくさんのフィードバックをもらい、研究を更に進めていきます。

 

最後は日本の博士課程と同様に、博士論文の最終審査(Defense)があります。

博士課程で行ってきた研究を1時間ほどのプレゼンで発表し、教授陣からの質問(攻撃)に耐えれ切れば合格です!

晴れて博士号を取得します。

 

アメリカの博士課程にはタダで行ける!

アメリカと日本の大学院の一番大きな違いであり、アメリカの大学院に行く一番大きな決め手になったのが、アメリカの大学院にはタダで行くことができるという点です。

 

アメリカの大学院では、

  • Research Assistant(RA)として研究やプロジェクトに参加したり
  • Teaching Assistant(TA)として講義や授業のサポートをしたりすることで

学費+生活費を給料として受け取ることができます。

 

アメリカの上位校、特に私立大学の学費は非常に高いです。

Stanford大学の工学系の学費は年間なんと5.7万ドル(620万円)!

とてもじゃないけど博士課程に5年間通うことなんてできませんよね。

ましてやスタンフォードのあるベイエリアなんて家賃・生活費も非常に高額です。

 

しかし、博士課程として入学すれば基本的にすべて学科から学費が支払われるため、個人で負担する必要はありません。

更に、大学・地域にもよりますが大体月$1500〜$2500程度の給料が支払われます。

これがあれば、一人暮らしであればギリギリ生活していけます。

 

だい
僕はRAで月に約$2000ほど貰っていました。学費の自己負担はありませんでした。
石油工学科が特に有名で、学科にお金が潤沢にあったためか修士でも給料を貰っている人もいました。
かい
私は教育学修士でしたが、学期ごとに$1500の奨学金が出たり、学費が半額になったりしました。
特別支援クリニックでインターンもできたので、月に$1000ほど収入もありました。

 

日本の大学院にもTAやRAの仕事はありますが、アメリカほど大きな金額を貰えることはないです。

日本の返済義務のない奨学金もありますが、競争率が高かったり金額が十分でなかったりする場合が多いです。

 

卒業後の進路は就職(更に高収入)かアカデミア

アメリカで博士号を取得したあとは、

  • 就職
  • アカデミア(ポスドク・教授・研究者など)

のどちらかに進むことになります。

 

日本に比べると、理系は特に就職する人の割合が高いです。

その原因の一つとして考えられるのは、博士号に対する企業からの求人が多いことです。

企業の研究職には、より専門的な知識・スキルを身に着けた人が必要だと考えられており、博士号を持っている人が多く採用されています。

 

また他の人には無いようなユニークな能力を持っている人材は、高く評価され高収入になる傾向があります。

そのため博士号を持っている人は、初任給から年俸$100,000(1100万円)を超えるケースは決して珍しくありません。

コンピュータサイエンスの博士号を持ってGAFAのような大手テック企業の研究職に就職すれば、初年度から2000万円+株・ボーナスなんてことも。

 

他の分野でも修士に比べ更に給料が高くなる傾向があり、博士課程で身につけた能力を活かすために就職という道を選ぶ人は多いです。

 

だい
僕の学科の博士号取得者は、初任給$100,000(1100万円)前後が多かったです。

GradSchoolHub – 10 Best Doctoral Degrees by Salary

 

アメリカの博士課程は、アカデミア就職でも有利に働きます。

多くのアメリカの大学は世界的にも評価されているため、日本だけでなく世界中の研究機関で働けるチャンスが広がります。

 

アメリカと日本の大学院の違い、まとめ

 

アメリカと日本の大学院は様々な面で大きく異なります。

 

アメリカの大学院の重要な特徴、日本の大学院と違うポイントを以下にまとめました。

  • すべて英語で授業・ミーティングが行われる
  • アメリカ国外からの留学生が多い(特に理系)
  • 成績や試験が原因で中退になるケースが多い
  • 学位が上がるとその分収入が跳ね上がる(学士 < 修士 < 博士)
  • 修士課程
    • 授業がメイン
    • 研究に割ける時間が少ない
  • 博士課程
    • 入学に修士号が必要ない
    • 入学後にも特別な試験を受ける必要がある
    • 給料・学費を大学からもらうことができる
    • 卒業後アカデミアに行く場合は、世界中の研究機関に行くチャンスがある

 

最後になりますがもう一度。

 

この記事に載っている情報は、あくまで筆者個人の経験・知識によるものです。

アメリカの大学院のシステム・仕組みは学校・学部によって大きく異なります

実際に大学院受験を検討される方は、必ず受験先の大学のWebサイトを確認し、最新の情報を確認するようお願い致します。